鬱病の現代医学的な解説をいたします。

その前に現代医学的な研究でも鍼灸が鬱病に効果的であることが分かってきました。

 

「PLOS Medicine→(2013年9月)に掲載された英国の研究によると、鬱症状に鍼治療
「東洋医学で使うハリ」が心理療法と同程度に有効かもしれないとの結果が出ています。
3ヶ月間にわたって鍼治療またはカウンセリングを受けたグループでは3人に1人が鬱症状が治まったのに対して、従来の治療(抗鬱剤?)しか受けなかったグループで鬱症状が治まったのは5人に1人だったとのこと。

鬱病は男女比では、男性より女性のほうが2倍ほどうつ病になりやすいとされています。

パニック障害の鍼灸についてはこちら→

また近年の研究では生涯のうちにうつ病にかかる可能性は15%程度という報告が多く、日本で2002年に行われた1600人の一般人口に対する面接調査によれば、時点有病率2パーセント、生涯有病率6.5パーセントとのことです。

このようにうつ病はかなりポピュラーな病気であり、軽度のうつ状態であれば、ほとんどの人が生涯を通じて何度も経験することと考えられます。

現代医学では”うつ状態”と”うつ病”を区別しています。

うつ状態は一過性の心理的なストレスに起因するものである心因性のうつ、適応障害、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害=PTSDや、自律神経失調症、パニック障害など、他の疾患の症状としてのものや、季節や生体リズムなど、身体の内部の変調によって生じるものと考えられる内因性うつなどに分類されます。

うつ病の一般的な診断基準にはDSMが採用されており、上記のようなうつ状態が、死別反応以外のもので2週間以上にわたり毎日続き、生活の機能障害を呈しているある程度の重症患者に対して当てはまるとされています。

この他にも、器質的疾患からうつ病・うつ状態となることもあります。

中枢神経系では脳血管障害、パーキンソン病、脳腫瘍 など 。

内分泌系では副腎疾患(アジソン病)、甲状腺疾患 (橋本病)、副甲状腺疾患など。

炎症性疾患では関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど。

DSM-IVのうつ病診断基準の基本は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」の二つの大分類となっています。

抑うつ気分は、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感、悲しさなどを指し、興味、喜びの喪失は、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態を指します。

抑うつ気分に関連した症状として、「自分には何の価値もないと感じる無価値感」、「自殺念慮・希死念慮」などが上げられます。 このタイプの患者は「気分が落ち込んで嫌な毎日であり、自分には存在している価値などなく、死にたいと思う」などと訴える傾向があるようです。

興味、喜びの喪失と関連した症状としては、「気力の低下と易疲労性」、「集中力・思考力・決断力の低下」が上げられ、このタイプの患者は、「何をしても面白くなく、物事にとりかかる気力がなくなり、何もしていないのに疲れてしまい、考えがまとまらず小さな物事さえも決断できない」というような訴えが多いようです。

更にこれらの精神症状に加えて「身体的症状」として、食欲、体重、睡眠、身体的活動性の4つの領域で、顕著な減少または増加が生じます。

例えば「食欲がなく、体重も減り、眠れなくて、いらいらしてじっとしていられない」もしくは「変に食欲が出て食べ過ぎになり、いつも眠たく寝てばかりいて、体を動かせない」などです。

DSM-IVでは、主要症状1つを含む5つの症状が2週間以上持続することが、大うつ病診断の条件となっています。

うつ病・うつ状態の分類としては、DSM-III以降の米国精神医学会の症状の重い「大うつ病」と、軽いうつ状態が続く「気分変調症」に二分され、、古典的な分類では心理的誘因が明確でない「内因性うつ病」と、心理的誘因が特定できる「心因性うつ病」の二つに分ける方法が、多く採用されているようです。

また一般的には、内因性のものがうつ病”とされ、心因性のものは適応障害として分類されることが多いようです。

さらに、うつ病の長期経過による分類としては躁状態を呈する躁うつ病(双極性障害)、うつ病を繰り返す反復うつ病、再発のない単一エピソードうつ病の区分があります。 現代医学におけるうつ病の成因論は、大きく分けると、生物学的仮説と心理的仮説が上げられますが、どちらにも決定的な根拠は乏しいようです。

心理的な仮説は、生理学的な現象と照らし合わせた時、科学的な根拠が乏しいとされ、科学的な仮説では、脳と心の関係が解明されておらず、どちらからアプローチしても、答えが出にくい状況にあるようです。
そのため、成因論よりも、どのようにすれば、改善する方向に向かうのかが治療の要諦となっています。

生物学的仮説は、薬物の有効性から考え出されたモノアミン仮説、MRIなどの画像診断所見に基づく仮説などで、近年はSSRIとよばれるセロトニンの代謝に関係した薬物が出回り、セロトニン仮説が注目されたり、海馬の神経損傷も話題となっているものの、決定的な治療法に繋がる発見にはたどり着いていないようです。

心理学的・精神病理学的仮説としては、テレンバッハのメランコリー親和型性格の仮説が有名で、几帳面・生真面目・小心な性格を示すメランコリー親和型性格を持つ人が、何らかの理由で立場が変わり、責任範囲が広がると、すべてをきっちりやろうと無理を重ね、うつ病が発症するというものです。

生活での悩みがうつの原因になるという主張は、一見当然のように見えますが、全ての人がうつになるとは限らず、またその軽重も千差万別ですので、決定的な原因の根拠とはならないとする反論もあるようです。

これに近い考え方としては、認知療法の立場から、人生の経験の中で否定的思考パターンが固定化したことがうつ病と関連しているとされているようです。

生物学的仮説
脳の海馬領域における神経損傷仮説では、近年MRIなどの画像診断の進歩に伴い、うつ病において、脳の海馬領域での神経損傷があるのではないかという仮説が唱えられており、このような海馬の神経損傷には、遺伝子レベルでの基礎が存在するとも言われているようです。

心的外傷体験が海馬神経損傷の原因となるという仮説で海馬の神経損傷は幼少期の心的外傷体験を持つ症例に認められるとの研究結果から、神経損傷が幼少期の体験によってもたらされ、それがうつ病発病の基礎となっているとの仮説もあるようです。

心理学的仮説
心理学的成因仮説の代表は、病前性格論で、うつ病にかかりやすい病前性格として、主に、メランコリー親和型性格、執着性格、循環性格、が日本では提唱されています。

メランコリー親和型性格はドイツの精神科医テレンバッハ (H. Tellenbach) が提唱したもので、秩序を愛する、几帳面、律儀、生真面目、融通が利かないなどの特徴を持ち、主として反復性のないうつ病となることが多いとされています。

執着性格は下田光造が提唱したもので、仕事熱心、几帳面、責任感が強いなどの特徴を持ち、反復性うつ病や躁うつ病の病前性格の一つであるとされています。

循環性格はエルンスト・クレッチマー (E. Kretschmer) が提唱したもので、社交的で親切、温厚な反面、優柔不断である為、決断力が弱く、板挟み状態になりやすいという特徴で、躁うつ病の病前性格の一つと考えられています。

治療の基本方針 心理的葛藤に起因しない内因性うつ病の場合、多くの場合は時が経てば治ることが多いようです。

内因性うつ病の症状は、“気の持ちよう” や“努力”などで変えられるものではなく、変えられないものを、変えようと無理をすれば、症状を悪化させます。

むしろ、変えようとせず、憂うつな気分に逆らわず、十分な休養を取りながら、回復を待つべきであるとされています。

あせって人生の決断を下さない方がよく、転職・退職、離婚などの重要な決断はなるべく後回しにするようにすすめます。

一般にうつ病では判断能力が低下していることが多く、適切な判断が下せないことがあることから、家族など周囲の人たちも、長い目で患者を見守ることが求められます。

「頑張れ」や「甘えるな」という言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなりますので、回避しましょう。

「気の持ちようではないか」「旅行にでも行って気分転換してはどうか」といった言葉も、適切ではなく、長期間に及ぶような酷いうつ状態(つまりうつ病)の場合には、適切な治療なしには気の持ちようを正すこともできず、旅行に行く気力も出ないため、これらの言葉はかえって患者を苦しめるので注意しなければなりません。

心理的葛藤に起因すると思われる心因性うつ病の場合 心理的葛藤に起因すると思われるうつ病では、原因となった葛藤の解決や、葛藤状況から離れることなどの原因に対する対応が必要です。

 

■薬物療法
うつ病に対しては、抗うつ薬の有効性が臨床的に科学的に実証されていますが、その効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1~3週間の継続的服用が必要です。

抗うつ薬のうち、三環系四環系は、口渇・便秘・眠気などの副作用が比較的多く、近年開発された、セロトニン系に選択的に作用する薬剤SSRIや、セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用する薬剤SNRI等は副作用は比較的少ないとされていますが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされます。

また、不安・焦燥が強い場合などは抗不安薬を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することも多いようです。

抗うつ薬による治療開始直後には、年齢に関わりなく自殺の危険が増加する可能性があると、アメリカ食品医薬品局 (FDA) から警告されています。

また、近年セント・ジョーンズ・ワートを始めとしたハーブの利用にも注目が集まっていますが、有効性は確認されていないようです。

欧米では非定型うつ病については、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害剤)が第一選択になっていますが、日本では認可されていません。

■認知行動療法
外界の認識の仕方で、感情や気分をコントロールしようという治療法で、抑うつの背後にある認知のゆがみを自覚させ、合理的で自己擁護的な認知へと導くことを目的とし、対人関係療法も認知行動療法の一種です。

■心理療法カウンセリング 電気けいれん療法 (ECT)
保険適用が認められており、頭皮の上から電流を通電し、人工的にけいれんを起こすことで治療を行うもの。
薬物療法が無効な場合や自殺の危険が切迫している場合などに行い有効性が認められています。

■経頭蓋磁気刺激法 (TMS)
頭の外側から磁気パルスを当て、脳内に局所的な電流を生じさせることで脳機能の活性化を図るもの。
保険は未承認。

その他 断眠療法 光療法 運動療法 音楽療法

鬱病について、詳しい治療方針はこちらです。 宇都宮市さくら市真岡市鹿沼市下野市上三川町高根沢町矢板市壬生町芳賀町 市貝町益子町茂木町日光市那須塩原市小山市栃木市針