スポーツ障害を抱えるお子さんが当院にもしばしば来院されます

野球肩、テニスひじ、シンスプリント、肉離れ、腱鞘炎、疲労骨折などが多いです。
スポーツ障害を回避するためには、適切なトレーニングと、疲労や体の組織損傷の回復、食事、ストレスコントロールなどが、重要な要素になります。
これらの事を実践するためには、実はかなり広範囲の知識が必要です。
今回はそれらを少し詳しくご紹介したいと考え、投稿いたしました。
人間には遺伝的に継承された筋肉の特性や骨格、造血能力、脳の性質など両親から子に受け継がれる要素があります。
緩やかに人種的な特性もあります。
何を目指してスポーツを行うのかを見定めて、種目やチームを決めていくことが必要になります。
メダカはクジラにはなれないように、体格や性格に合った協議やポジションを考慮することも重要です。
メダカはクジラになれないのと同じく、クジラもメダカにはなれません。ライオンは強くてもチーターには足でかないません。
ホームランバッターになれなければ足で稼ぐための練習が必要でしょうし、頭を鍛えて監督を目指すのも良いでしょう。
先天的な物は変えられないわけですが、実際には後天的に獲得できる能力は相当な部分あります。
それを目指して多くのお子さんが日々頑張っています。
ですが頑張り方を間違えると、怪我に繋がり、選手生命を閉ざしてしまう悲劇がもたらされます。
日本ではいまだに根性主義の名残があるようで、長時間の練習が放置されています。
長時間の鍛錬は、農耕民族である日本人には、実際適している場合があります。
1万時間の法則と言うのがありまして、プロを目指すなら1万時間の練習があれば、例えばプロゴルファーの領域に達すると言う具合です。
これは統計学的に、プロ選手が取り組んできた練習時間から求められた数字です。
しかし、この理屈はトップアスリートを目指すならば、あまり好ましくありません。
長時間耐えられる筋肉や骨格の持ち主と言うのは、遅筋の割合が多く、体格は痩せている場合が多いです。
爆発的な力を発揮するには不向きです。
世界的な短距離ランナーのほとんどは、速筋が多い遺伝的な特性を持っています。
ただしこの速筋と言うのは疲労しやすく、壊れやすいのです。
日本ではやればできるのに練習をしたがらない子供は、注意されたり排除されたり、とにかく指導の対象となります。
怪我が多いと自己管理がなっていないとなることも多いでしょう。
ですが、そうしたお子さんの中にこそトップアスリートの資質が備わっているのかもしれないのです。
一方であの子は体格が小さくてもまじめに休まず頑張っている。
なーんて評価をもらうお子さんもいます。
もちろんその長時間練習に耐えられるのも遺伝的に造血能力が高い数パーセントの資質を備えたお子さんなのかもしれません。
評価は賛否両論でしょうけれども、世界的なクラブチームや各国のアスリート要請所では、遺伝子検査を実施し、特性にあった選手を選抜しているとのこと。
とは言え、遺伝子のすべてが解明されている訳でもありませんし、無数にある遺伝子の特性と、様々な協議やポジションに適しているか否かの判定は、単純には行えません。
ようは力を発揮し、結果を残せば良いのです。
それにしても特性があることは知っておいて損はないでしょう。
スポーツはだれもが同じトレーニングをして結果が均一に出るものではありません。
お子さんの状態をできるだけ把握して、時に休ませたり、時に頑張らせたりして、親子共に成長していけると楽しいですよね。
ちなみに私の3人の子供もスポーツを行っています。
野球、空手、新体操など。
小さいころから行う場合、何を注意すべきか、何時も考え実践してきました。
スポーツにけがは付き物と言いますが、その怪我が致命的になることもしばしばであるのが、厳しい現実なのです。
親である以上、それを回避するための努力はした方が良いのではないでしょうか。
痛み、炎症、筋肉の特性、軟骨の特性、ストレスコントロールが実はかなり重要であることなどをいくつかの参考図書と共に列記しています。
長いですが宜しければお読みください。

参考図書一覧
中南米野球はなぜ強いのか ドミニカ、キュラソー、キューバ、ベネズエラ、MLB、そして日本 | 中島 大輔著
エース育成論 九州の大学野球を変えた男 | 仲里 清著
スポーツ医学常識のうそ | 横江 清司
スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学 | デイヴィッド・エプスタイン 著 福 典之 監修
アスリートとして知っておきたいスポーツ動作と身体のしくみ | 長谷川 裕著
スポーツ科学の教科書――強くなる・うまくなる近道 (岩波ジュニア新書 谷本 道哉編著 石井 直方 監修
摩季れい子の野球PNFトレーニング
IDストレッチング | 平野 幸伸, 鈴木 敏和, 鈴木 重行
やってはいけないストレッチ (青春新書インテリジェンス) | 坂詰 真
動的ストレッチメソッド | 谷本 道哉
ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典 | 竹井 仁
臨床家のための基礎からわかる病態生理学 | 北川 美千代 著
解剖学アトラス 第3版 | W.カール[ほか] 著 越智 淳三 訳
スポーツと健康の栄養学 | 下村 吉治
JISS国立スポーツ科学センターのアスリートレシピ | 国立スポーツ科学センター著
長友佑都の食事革命
運動するときスポーツドリンクを飲んではいけない (廣済堂健康人新書 清水 泰行著)
子供の身長を伸ばすためにできること | 額田 成著
歯周病と全身の健康 | 日本歯周病学会
自律神経失調症―さまざまな症状と治し方 | 橋口 玲子
いまどきの子のやる気に火をつけるメンタルトレーニング体性-自律神経反射の生理学 物理療法,鍼灸,手技療法の理論 | 佐藤 昭夫,佐藤 優子,R.F.シュミット著 山口 真二郎 監訳
心の神経生理学入門 神経伝達物質とホルモン(心理学エレメンタルズ) | ケヴィン・シルバー 著 苧阪 直行,苧阪 満里子 訳

.痛みの原因には様々な要素が絡み合っています。

神経痛は神経が筋肉の過度な緊張で神経を圧迫してもおきますし、神経が断裂しても起こります。
また軟骨や骨の変形によっても神経が圧迫されて起こります。
偏頭痛のように血管が拡張することで神経を刺激する物もあります。
これらは特に血液検査などで炎症反応が見られなくても、痛みとして感じられるものです。

. 炎症による痛み

炎症の要因は様々です。
捻挫、打撲、肉離れ、骨折、擦過傷などの外傷、病原体侵入、化学物質刺激、新陳代謝異常による組織細胞の異常変化、極端な温度環境、外耳道、肺などへの水の浸入などで炎症を引き起こします。
生体に、これらの異常が生じると発赤 、熱感、腫脹、疼痛、機能障害などの炎症反応が出現します。
発赤は毛細血管透過性が高まり、細動脈の拡張により血流の増加が起きることで出現します。
この血流の増加が治癒に必要な物質供給と除去を活性化します。
疼痛「痛み感覚」は体の中に分布する自由神経終末が異常を検知すると、脳中枢に伝えられます。
炎症部位に集まった食細胞などが、キニン、プロスタグランジンなどの化学物質を放出し、痛み感覚の受容器を刺激し、これが感覚神経を通じて中枢神経に伝わります。
痛みを感じるとその部位の防御治癒のために休養、逃避、運動の制限など様々な反応が現れます。
意識的に行わるものもあれば、無意識に体が反応するものもあります。
発熱 炎症反応の発熱は、当該組織に湧出したマクロファージ、白血球が発熱物質を産生することで引き起こされます。
修復細胞免疫細胞等の体細胞は高い温度下で運動量が増大しますのでこれが熱を産生する理由です。
腫脹 ヒスタミン、キニン、ロイコトリエンなどの働きで毛細血管透過性が増すため、当該部位に血流が増大し、通常血管内にとどまる物質も組織液に流出し、腫脹が生じます。
腫脹は活発な物質交換の場を提供し、治癒を早めます。

多くの場合、炎症は赤発をもたらしますが組織の損傷の度合いにより、ほとんど目立たない場合もあります。
損傷などを、こうむった細胞はプロスタグランジンを遊離させます。
この物質はヒスタミンやキニンの効果を高める働きをします。
血液中の不活性なタンパク質群「補体タンパク質」が反応してヒスタミンの遊離を促進します。
すると好中球が損傷部に集まります。
補体タンパクの中には細菌を殺す能力を持つものもあり、感染の場合、これが賦活されます。
炎症反応の強弱は様々で例えば、血管拡張が、わずかなため一見、赤くない、あるいは発熱を生じるほどでないため、熱を、それほど持たない炎症部位という場合もあります。
これらの反応が起きると、恒常性は血液循環を制御して、異常部位へのエネルギー供給を増やします。
外傷や内傷の場合、周辺組織に攣縮が起きる場合もあります。

炎症の第1期
刺激を受けることにより、まずその付近の血管が一時的に収縮します。
その後血管が拡張し血管透過性が亢進します。
直後には血漿等、血液の液体成分が漿液として滲出し、浮腫となります。

炎症の第2期
その後、白血球が血管内皮に接着し、血管外へと滲出し、病巣へ移動します。
この移動を血管外遊走と言い、感染症を防ぐための反応です。

炎症の第3期
急性炎症では刺激がなくなると、損傷した部位は肉芽組織の形成や血管の新生により回復します。
炎症が長期に渡ったり、慢性化したりすると好中球の核の左方移動が起こります。
急性炎症は生体内に異常が生じた時、その初期、あるいは軽微な異常に対処するために生じる反応です。

組織の損傷が激しければ、異常の発生した部位での炎症を誘因する物質の生成は活発になり多くの資源を動員して防御反応を起こすし、軽微であれば、その反応は小規模になります。
細菌などの感染が起き組織を破壊された場合、血漿成分と好中球が炎症の生じた障害部位に送られ、血管反応により毛細血管などが拡張し充血が起こって、3~4時間以上の経過で血管の透過性が亢進し循環障害と滲出現象が強く出ます。
この時点で炎症性浮腫という炎症時の局所の浮腫が起こります。
血管内の好中球は、血管外へ遊出すると、アメーバ運動をしながら炎症部へ進んで防衛反応を起こします。
完全治癒する場合、滲出液の吸収により、不溶性フィブリンや破壊された細胞が酵素による消化やマクロファージの貪食作用によって取り除かれ、浸潤した好中球の多くはアポトーシスによって死滅します。
瘢痕治癒では、欠損組織が多い場合、線維芽細胞、マクロファージ、新生血管が肉芽組織を形成して瘢痕組織となって、欠損部を補います。
サイトカインが関与する炎症の場合、体に何らかの傷害を受けて、通常は体内に存在しない特徴的な物質が障害組織に放出されます。
これらの物質をダメージ関連分子パターンと呼びます。
この分子群には、体外から侵入した微生物に由来する病原体関連分子パターンと、損傷を受けた自己組織に由来するアラーミン  が含まれます。。
このような傷害に特徴的な物質群が、自然免疫系に属する細胞に多く発現するパターン認識受容体により認識されることにより、炎症を惹起するサイトカインなどが放出されます。
このサイトカインなどの作用により、周辺の血管の直径は増し、血管壁の浸透性が高まります。この結果、血液供給量の増加に伴う発赤や熱感、浸透性の増加から来る体液の浸潤に伴う腫脹や疼痛が引き起こされます。

痛みを感じるセンサーが最も多いのが、手先です。
足先や顔、口の中なども敏感です。
背中は比較的鈍感です。
また皮膚には痛みを感じるセンサーが多く、皮下組織には比較的少なく、筋膜には比較的多く、筋肉内には少ないです。
つまり体の表面の痛みは感じやすいけれども、内部の痛みは感じにくいです。
骨膜にも痛みを感じるセンサーがあったり骨の中を通る神経もありますが、比較的骨の中には神経が少ないです。
また軟骨には神経がないので、損傷があっても気が付かずに悪化させる可能性があります子供の骨の先端はまだ柔らかい軟骨の状態です。
柔らかいために、傷つきやすく、子供が関節痛を訴えたら、即座に運動を中止させるべきです。
軟骨の破壊だけでなく、付着する筋肉や軟部組織に炎症がある可能性が考えられます。
すでに手遅れになっている場合もあります。

「関節痛ではなく筋肉痛の場合はそのかぎりではありません」
筋肉痛と関節痛の違いは、ある程度鑑別できますが、一般に整形外科であってもスポーツに精通していない先生も多いので、専門病院で診てもらいましょう。
筋肉はレントゲンでは映りません。
軟骨も映りにくく、熟練した専門医の鑑定が必要な場合も多いです。

参考
ビジュアル版 筋肉と関節のしくみがわかる事典 | 竹井 仁
臨床家のための基礎からわかる病態生理学 | 北川 美千代 著
解剖学アトラス 第3版 | W.カール[ほか]著 越智 淳三 訳

. 筋肉痛

筋肉痛は筋組織の部分断裂による炎症通です。
筋肉を酷使すると、細かい筋肉組織が損傷し、発痛物質が体内に放出されます。
神経のセンサーがそれを感じ取り、痛みとなります。
筋肉痛を回復させるためには球速が必要です。
筋肉痛には良い悪いはありません。
筋肉痛を抱えたまま再び負荷をかけると、損傷部位をさらに損傷させる結果になります。
そうした事を繰り返すと、肉離れや筋断裂、筋肉が付着する関節炎、軟骨の剥離などに繋がります。
なぜ関節や軟骨にダメージがおこるのかと言うと、痛みを感じると筋肉は収縮する性質があるからです。
疲労や筋肉痛「炎症」があると、自律神経の交感神経緊張が起こります。
すると筋肉が硬くなります。
硬い筋肉は張力が強いので、関節や軟骨を強い力で引っ張ります。
長時間負荷をかけたり、反復運動しすぎると子供の骨単は軟弱ですので、痛めやすい状態になります。
子供のころに傷ついた骨単や軟骨は、大人になっても正常に戻ることはできません。
選手生命がなくなる可能性があると理解しましょう。
一方で筋肉は損傷と回復を繰り返して強くなる性質があります。
また筋肉によって回復が遅い部位、早い部位があります。
そうした筋肉の性質を理解し、毎日行っても良いトレーニングなのか、3日に1回が適切なトレーニングなのかを見極めましょう。
何時も筋肉を酷使していると、交感神経緊張のため硬い筋肉になります。結果的にけがをしやすくなります。

重要
筋肉の回復速度には個人差があります。
どう見極めるかは痛みのチェックが必須です。
子供に痛いかどうかを聞いて、痛い部位を酷使する運動は控えましょう。
例えば背中にある広背筋は一般に回復が遅いです。
器具などを使うトレーニングの場合は3日に1回から2日に1回にとどめるべきです。
野球に応用する場合、子供が背中が痛いと言ったら、広背筋や起立筋などに疲労が蓄積していることを予測し、痛みが引くまで軽めのメニューに切り替えたり、場合によっては休ませるべきです。
ちなみにこの広背筋は背中に広く分布していますが、肩関節を動かす筋肉の一つでもあります。
背中が痛いと肩も正常に動かないことを理解しましょう。
肩関節は複雑な関節ですので、どれか一つでも関節を構成する筋腱の状態が悪くなると、重大な障害に繋がりやすいので注意が必要です。
肩こり腰痛頸の痛みは肩の可動域も制限することを理解しましょう。

参考
アスリートとして知っておきたいスポーツ動作と身体のしくみ| 長谷川 裕著
スポーツ医学常識のうそ | 横江 清司
スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学 | デイヴィッド・エプスタイン 著 福 典之 監修
スポーツ科学の教科書――強くなる・うまくなる近道 (岩波ジュニア新書 谷本 道哉 編著 石井 直方 監修
摩季れい子の野球PNFトレーニング 

. 食事と筋肉、炎症

運動をすると血中の糖質が使用されます。
それを使い切ると筋肉に蓄積されたグリコーゲン「栄養」が使われます。
それも枯渇すると脂肪を燃焼させたり、筋肉そのものの蛋白質を栄養に変えて、運動することになります。
何も食べなければ当然筋肉も痩せます。
そこで運動前には蛋白質と糖質が特に重視されます。
その他の栄養素が必要ない訳ではなく、運動を盛んにおこなう場合は1日の摂取量を増やす必要はあります。
運動前に蛋白質と、蔗糖を除く炭水化物や果物を摂取すると、栄養が補充されるだけでなく、筋肉疲労を予防する効果があるとされています。
もちろん過度なトレーニングをすると、その効果は果たせません。
また運動後は20分以内にしょ糖を含む糖質炭水化物を摂取すると、疲労回復しやすいとされています。
さらに蛋白質を運動直後に摂取すると、筋肉がつきやすいとされています。
運動前の大量の炭水化物や糖質の摂取には注意が必要です。
過度に糖質を摂取すると「特にしょ糖の場合」急激に血糖値が上がります。
そうすると、インスリンが分泌され、糖を脂肪に変えようと、体が反応します。
結果的に運動中に血糖値が下がり、貧血のような症状になったり、場合によっては嘔吐します。
近年食事を何回かに分けたり、短い間隔で少量の栄養を摂取しながら運動する方法が主流となっているのは、インスリンを意識しているからです。

重要
インスリンの分泌には個人差があります。
食べた後すぐに動ける子もいればそうでないこもいます。
また血糖値が急激にあがると、血中に炎症物質が増えやすく、血管を脆くすることが近年わかってきています。
人間の口には歯周病菌や虫歯菌が多数存在し、一部は血中に入り込んでいるそうです。
それらの細菌の食料は糖です。
血糖値が上がると、菌が増殖します。
心筋梗塞や脳梗塞の患者の血管のこぶから、そうした細菌が多く検出されます。
免疫力が高いと、そうした菌の活動は抑制されますが、年をとると、菌が脆くした血管にコレステロールが蓄積し、重大な疾患に繋がります。
血糖値が上がると血中の炎症性物質の量が多くなるのは、このようなメカニズムが働いています。
ですので、スポーツをする上で、急激な血糖値の上昇をするような食トレには、不向きな子供も存在します。
特にアレルギー疾患を持っている場合は、急激な血糖値の上昇で炎症が強まります。
炎症しやすいと言うことは、疲労も回復しにくいと言うことです。
多くのプロ選手が玄米食などを取り入れているのは、急激な血糖値の上昇を抑える目的も含まれているようです。
有名どころではサッカーの長友選手がそうです。
普段の食事に、炭水化物があまり含まれないいわゆる糖質オフ療法を取り入れています。

注意
皮下脂肪をエネルギーにしやすい体の子供と、そうでない子供がいることを理解しましょう
糖質を制限すると低血糖に陥る体質のお子さんもいます。個人差が大きいです。
これまでのスポーツ医学では、筋肉内のグリコーゲンの蓄積を最大にするために、試合の3日前くらいから疲労に繋がる練習を止めたり、少なくする手法が用いられていました。
それと共に特に寝る前の炭水化物摂取量を増やします。
また試合の朝、炭水化物を多めに摂取する方法で、通常時より筋肉内のグリコーゲン量が最大50パーセント増すと言う報告もあります。
ただし試合直前では前述のように、インスリンの影響で低血糖になり、逆にパホーマンスが落ちる場合も考慮する必要があります。
これも個人差がありますので、100パーセント正しい食事トレーニングはないと思われます。

参考
スポーツと健康の栄養学| 下村 吉治
JISS国立スポーツ科学センターのアスリートレシピ| 国立スポーツ科学センター 著
長友佑都の食事革命
運動するときスポーツドリンクを飲んではいけない (廣済堂健康人新書 清水 泰行 著
子供の身長を伸ばすためにできること| 額田 成 著
歯周病と全身の健康 | 日本歯周病学会

. ストレスと免疫力低下

人間はストレスを感じると抵抗しようとして交感神経が活発に働きます。
交感神経は自律神経の1つです。
交感神経が緊張すると筋肉は収縮しやすくなります。
ストレスを感じるとアドレナリンが分泌されます。
交感神経が活発になり、筋力を発揮しやすくなります。
大舞台で活躍できる人はこのストレスによるアドレナリンの分泌と、運動が連携できる人です。
ここで注意しなければならないことは、緊張状態を作り出して、力を発揮し続けると、最大筋力が発揮されやすい一方で、本来セーブされている力を出し切るために、自らの筋力で、関節や筋肉組織、軟骨を破壊してしまう場合があると言うことです。
冷静に自然体で力を発揮できる体力を身に着けた方が、故障は少ないと言うことになります。
細いのにやたら力が出るタイプは要注意ですね。
またストレスが蓄積すると最終的には免疫力が落ちます。

「ストレスが免疫力を下げる化学的な根拠」→
「汎適応症候群の学説→ストレス学説」
カナダモントリオール大学のハンスセリエが提唱したもので、種々の刺激が下垂体ー副腎皮質系を介して、内分泌系に特徴的反応を起こすものをい言います。
人は日常生活の中で様々なストレスを受けています。先のセリエ博士は「ストレス は人生のスパイスである」と言っています。
適量なスパイスは料理を一層美味にするのと同じように、適度なストレスは緊張感 や能力を高め、困難を克服し目標達成の充実感は人生にメリハリを与え、人間の成長 にもつながり無くては成らないもので、良い効果もあります。
しかしながら大きく長く続くストレスは色々な面で悪影響を及ぼします。
免疫力とは体内に侵入した細菌やウイルス、腫瘍などを排除する力です。
免疫システムを担っているのは免疫細胞である白血球です。
白血球には主にリンパ球、顆粒球、マクロファージの三種の免疫細胞が存在します。
リンパ球は免疫担当細胞であるナチュラルキラー細胞にも関係しています。
免疫システムも自律神経支配を受けています。活発な状態では交感神経が優位になり顆粒球の比率が上昇、穏やかな状態では副交感神経が優位となりリンパ球の比率が上昇します。
ストレスが過度になれば自律神経のバランスが崩れ自律神経失調症や心身症、神経症といった心理的・身体的症状があらわれるようになります。
また「テストの前になると必ず風邪をひく」「寝不足が続いたら風邪をひいた」 「嫌なことが続くと頭痛が起こる」など経験したことがありませんか?
試合の前に嘔吐してしまうとか下痢になるとか汗が止まらないなど、見られるお子さんもいると思います。
私たちが持続的な強いストレスを受けると、脳からストレスに反応してステロイドホルモンや神経伝達物質が分泌され、白血球中のリンパ球や細胞の働きを低下させます。(動物実験で実証)
こうしたことからストレスが過度になると、免疫力が下がり、感染症にかかりやすくなったり、怪我が治りにくくなったり、炎症がおさまりにくくなったりします。
必要以上に汗をかく。嘔吐する。顔色が良くない。呼吸脈拍が極端に多いなどはストレスが高まっているサインです。
また風邪をひいていると言うことは、すでに免疫力が低下していると言うこともあり得ますので、練習メニューの調整が必要となります。

ストレスと反適応症候群の関係→
生体に良くない刺激が加わると、まず緊急反応が起こり、続いて汎適応症候群の状態に移行していきます。
刺激が生体に加わると自律神経中枢により、交感神経アドレナリン系が賦活し、ついで下垂体前葉ー副腎皮質系が作動します。
その時に糖質コルチコイドの働きにより、汎適応症候群の状態が作り出されます。
糖質コルチコイドはタンパク質を糖化「ブドウ糖」に変かさせ、血糖量を上昇させます。
中枢神経に対しては成長ホルモン分泌抑制を、肝臓に対してはインスリン様成長因子発現抑制をもたらします。
また全身での細胞増殖・成長を抑制する性質もあります。
ACTH「副腎皮質刺激ホルモン」により制御され、血中濃度には日内変動がみられます。
と言うことで、ストレスが高い状態だと、筋肉が付きにくい、体が大きくなりにくいと言うことになります。
睡眠時間をきちんと取った方が体が大きくなるのは、こうした作用が関係しています。
物理的、化学的など生体に対するあらゆる刺激をストレッサーと言います。
ストレッサーが作り出す生体のゆがみ、ひずみの状態をストレスと言います。
ストレスを受けた生体は、以下の3つの様相を示します
副腎皮質の肥大
胸腺、リンパ系の萎縮
胃十二指腸の潰瘍
副腎皮質の肥大が生体の防御機構にとって重要となります。
ストレスを受けた生体は三つの時期に分類でき、一定の順序に沿った反応を示します。

第1期警告反応期→「ショック相」
生体がストレッサーに直面した直後で、生体は何の準備もできていない時期です。
刺激に対する抵抗性の低下、神経系の抑制、体温、血圧の低下、毛細血管透過性亢進、筋緊張の低下、などの反応が見られます。
この時期は数分から1日とされています。

交絡抵抗期→「反ショック相」
ショック状態に対し、積極的な防衛反応をていしてくる時期です。
下垂体前葉よりACTHの分泌が見られ、副腎皮質の肥大が引き起こされます。
結果的に副腎皮質ホルモンの分泌増加となります「糖質コルチコイド」。
ショック状態から正常な状態の方向へ戻ろうとし始める時期です。
この時期はストレッサーとなった刺激以外の 刺激に対する抵抗力も高まっている時期です。

第2期抵抗期→交絡感作期
感作:一度経験することにより学習して何らかの判断ができるようになります。
副腎皮質は肥大したままで、副腎皮質ホルモンの分泌はさらにさかんとなっていて、ショック反応は消え、反ショック相より安定した状態にあります。
この時期は、最初に加えられたストレッサーに対する抵抗力は強いのですが、他のストレッサーに対する抵抗力は弱まっている時期です。
この時期を交絡感作と言います。

第3期疲憊期
ストレッサーが長く続いたり、強さが強すぎたりするとストレスに対し、反応する能力が低下し適応反応を維持しきれなくなり、抵抗力を失ってショック相と似た状況になってしまいます。
最終的には死亡に至ることもあります。
ストレスによる疾病は様々です。
ストレスに適応できずに病的な症状を呈するものを適応病と呼びます。
適応病には、下垂体前葉や副腎皮質の疾病である一時的なものと、それに引き続く2次的なものとがあります。

  • 1次的なもの
    クッシング病、シモンズ病、アジソン病など
  • 2次的なもの
    高血圧症、一部の腎臓病、関節リウマチ、胃十二指腸潰瘍、、心臓病、体質的な慢性疾患、マネージャー病、夜勤病など夜勤病、看護師やCAなど

こうした化学的な働きを理解すると、選手がミスをしてショックを受けた時に、一呼吸置いた方が力を発揮しやすいと言うことが分かります。
また激しい運動はストレスであることには変わりません。
破壊された筋組織の再生だけでなく、緊張を続けている自律神経を休めることも、必要になる訳です。
このストレス耐性には個人差があります。
持ち合わせた体力、精神力、自律神経の働きの強弱などの総合的なパホーマンスを見極めることが必要です。
抵抗気から疲憊気に入らないようにする、絶妙のバランスを取ると、強靭な精神力、体力、自律神経を手にすることができると言うことになるでしょう。

参考
自律神経失調症―さまざまな症状と治し方 | 橋口 玲子
いまどきの子のやる気に火をつけるメンタルトレーニング体性-自律神経反射の生理学 物理療法,鍼灸,手技療法の理論 | 佐藤 昭夫,佐藤 優子,R.F.シュミット 著 山口 真二郎 監訳
心の神経生理学入門 神経伝達物質とホルモン(心理学エレメンタルズ) | ケヴィン・シルバー 著 苧阪 直行,苧阪 満里子 訳
臨床家のための基礎からわかる病態生理学 | 北川 美千代 著

. ストレッチングの効果とポイント

昨今、動的ストレッチングがもてはやされております。
これはアメリカのいくつかの大学で、ストレッチ「静的ストレッチング」をすると最大筋力を発揮できないとする結果が影響しているようです。
静的ストレッチを行うと筋力の回復に1時間から2時間ほど必要とする研究もあります。
筋肉や軟部組織も物理的な存在ですので、例えば伸びたゴムとそうでないゴムではどちらが強い力を伝えられるかを想像していただきたいと思います。
しかしストレッチングには関節の可動域を広げ、疼痛「筋肉痛」を軽減し、怪我の予防や回復、血流改善、リラックス効果、疲労の軽減など様々な利点があります。
協議の開始時間や、トレーニングの室に合わせて、動的ストレッチと静的ストレッチを使い分ける必要があるでしょう。
また個々に筋肉の柔軟性が違います。
マラソン選手ならば競技前に動的ストレッチを取り入れるべきでしょうが、コンタクトスポーツではある程度硬くて大きな筋肉をつけていますので、試合の2時間前くらいに静的ストレッチをしてから、直前に動的ストレッチが必要な場合もあるでしょう。
速筋が遺伝的に多い体質の子供は瞬発力がある一方で、怪我や故障が多い傾向が高いですこのようなお子さんは長距離走には向きませんが、短距離ならば爆発的な力を発揮します。
遅筋が多いタイプはマラソンなどに向く一方、爆発的な力は発揮しにくく、一方で故障も少ないです。
速筋タイプには静的ストレッチが多めの方が、故障予防になります。

参考
IDストレッチング | 平野 幸伸, 鈴木 敏和, 鈴木 重行
やってはいけないストレッチ (青春新書インテリジェンス) | 坂詰 真
動的ストレッチメソッド | 谷本 道哉

野球肩