鍼灸刺激によって、大脳皮質血流量が増加したり、視床下部や下垂体の働きに影響を及ぼすことが分かっています。

脳からは様々なホルモンが分泌されますがそれらのホルモンと妊娠には、密接な関係があります。

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鍼刺激により女性のホルモンに影響を与えることができます。

今回はその反応について、詳しく説明いたします。

妊娠には多くのホルモンが関与しています。

骨盤内の臓器からのホルモンだけでなく、脳から分泌されるホルモンが大きな役割を果たしています。

鍼刺激を行うことで、以下の脳から放出されるホルモンに、影響を与えることが推察されます。

{1}視床下部から放出されるホルモン
1. 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (CRH)
2. 成長ホルモン放出ホルモン (GHRH)
3. 成長ホルモン抑制ホルモン (GIH)
4. 性腺刺激ホルモン放出ホルモン (GnRH)
5. プロラクチン放出因子 (PRF)
6. プロラクチン抑制因子 (PIF)
7. 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン (TRH)
8. ソマトスタチン (SS)

{2}脳下垂体から放出されるホルモン。
1. ACTH (副腎皮質刺激ホルモン,adrenocorticotropic hormone)
2. GH (成長ホルモン,growth hormone)
3. PRL (プロラクチン,prolactin)
4. TSH (甲状腺刺激ホルモン,thyroid stimulating hormone)
5. LH (黄体形成ホルモン,luteinizing hormone)
6. FSH (卵胞刺激ホルモン,follicle-stimulating hormone)
7. MSH (メラニン細胞刺激ホルモン,melanocyte-stimulating hormone)
8. OXT (オキシトシン,oxytocin)
9. VP(=ADH) (バソプレッシンまたは抗利尿ホルモン,vasopressin)
10. 成長ホルモン放出ホルモン=GHRH
11. 成長ホルモン=GH
12. ソマトスタチン=SS
13. 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン=TRH
14. 甲状腺刺激ホルモン=TSH
15. 甲状腺ホルモン=T3、T4
16. 乳汁分泌ホルモン放出因子=PRF
17. 乳汁分泌ホルモン抑制因子=PIF
18. 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン=CRH
19. 副腎皮質刺激ホルモン=ACTH
20. 副腎皮質ホルモン=コルチコステロイド
21. 性腺刺激ホルモン放出ホルモン=GnRH
22. 黄体形成ホルモン=LH
23. 卵胞刺激ホルモン=FSH
24. プロゲステロン=P
25. エストロゲン=E

人間の脳内で働くホルモンは多数存在しますが、実はその働きについてはまだ解明されていない物が多いです。

現在50種類以上の神経伝達物質が確認されているようですが、その働きが比較的解明されている物が、20種類程度と言われています。

その中でもドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの三つを総称してモノアミン神経伝達物質と呼びます。

この三つの働きが主として関与することで情動に大変大きな働きを起こし、また多数の脳内の部位に大きな影響を及ぼすことで知られています。

神経伝達物質の内、ドーパミンとノルエピフリンは前頭葉に最も多く分布し、多すぎても、少なすぎても思考力に障害が生じるとされています。

ストレスが大脳皮質で認識されると、大脳皮質は伝達物質(ノルアドレナリン、アドレナリンなど)を分泌します。

その結果、視床下部が、脳下垂体にホルモンの分泌を促す命令を出します。

鍼灸治療はこの種の働きを利用していると言えます。

現在知られている鍼麻酔の原理を記載いたします。

{3}鍼鎮痛の発現機構
鍼沈痛に関わる受容器はポリモーダル受容器で、神経線維は細径のAδ線維です。

ラットの足三里穴と合谷穴に相等する部に、筋収縮を起こす強度で1Hzの電気刺激を与えると、徐々に鎮痛が出現し、刺激終了後もしばらく持続します。

この現象は、ナロキソン投与群には起こりません。

経穴部に発生した求心性インパルスは後根を経て脊髄後角に入り、反対側の前側索を上行し、中脳中心灰白質背側部を通って、視床下部に至ります。

視床下部内でインパルスは弓状核中央部を経て弓状核後部に達し、個々から脊髄へ下行する下行性痛覚抑制系を作動させます。

弓状核中央部から上位の情動を支配する大脳辺縁系を経由し、弓状核へ戻ってくる経路もあります。

武重は便宜上、経穴部から弓状核中央部までを鍼鎮痛の求心路、下行性痛覚抑制系を鍼鎮痛の遠心路と定義しました。

これらに関与するものには、ドーパミンニューロンや下垂体からのβエンドルフィンなどがあります。

求心路の刺激によって起こる鎮痛は発現までに時間がかかること、刺激終了後も鎮痛が持続すること、個体差があること、ナロキソンにより鎮痛が消失すること、下垂体摘出により鎮痛が起こらなくなることなどが上げられます。

下行性痛覚抑制系は視床下部の弓状核後部から始まり、ドーパミンニューロンを介して視床下部腹内側角に至り、2つの経路に分かれます。

縫線核を経て脊髄に下行するセロトニン系と、傍巨大神経細胞核を経て脊髄に下行するノルアドレナリン系の下行性抑制系があります。

両抑制系とも脊髄後索を下行し、脊髄後角で痛覚情報を遮断します。

「鍼鎮痛発現と内因性モルヒネ様物質」
鍼鎮痛発現にはβエンドルフィンニューロンが深く関与しています。

脊髄においては鍼鎮痛の求心路としてメチオニンエンケファリンが 深く関与しています。

このように、鍼刺激は様々な神経伝達物質に、影響を世ボス事ができるのです。

{4} 昨今脳の働きがどんどん解明されてきています。
男性ホルモンや女性ホルモン、副腎皮質ホルモンはステロイドホルモンと言われます。

ステロイドホルモンは精巣や卵巣、副腎皮質ではつくられますが、脳ではつくられないとされていました。

ところがこれらのステロイドホルモンが大脳の記憶中枢でもつくられていることが東京大学大学院総合文化研究科の川戸佳教授らの研究によって分かってきました。

海馬は脳内で神経核(神経細胞から次の神経細胞に情報を伝達する連結部=シナプス=が密集している部位)です。

この部位で、ステロイドホルモンが作られていることを見つけた訳です。

海馬は、記憶学習を司る期間で、中心的な役割を担っています。

大脳皮質の脳の司令塔です。

鍼刺激により大脳皮質血流が増えることにより、司令塔としての働きの円滑化が起こりうると考えられます。

大脳辺緑系は、自律神経の最高中枢である視床下部をコントロールしているところです。

ホメオスターシスの要であり、種族保存、自己保存などの本能的な機能だけでなく、情動や記憶にも関係しています。

鍼刺激は視床下部にも伝達されます。

★大脳辺緑系の活力を高めることによって、内臓の健康を増進することも可能になるでしょう。

また大脳辺緑系は大脳新皮質とも密接につながっています。

大脳辺緑系の活力を高めることによって、大脳新皮質にそなわっている精神活動を活性化させることにもなります。

脳の表面部分のことを大脳皮質と呼び、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉に分けられます。

また左脳、右脳の各部に分類することができ、左脳、右脳は脳梁でつながっています。

大脳皮質は人間の思考などの中枢機能を有しています。

大脳皮質の内側は白質と呼ばれ、大脳皮質の神経と他の神経をつないでいます。

大脳皮質のドーパミン感受性ニューロンの大半は前頭葉に存在します。

ドーパミン系は報酬、注意、長期記憶、計画や意欲と関連付けられています。

また、ドーパミンは、視床から前頭へと伝えられる感覚情報の 制限、及び選択に関連しているとされています。

多くのことがまだまだ解明されていない脳ですが、鍼灸で刺激を行うことにより、血流状態やホルモンに作用することは、間違いありません。

どのようになぜと言う部分では、解明がなされていないことが多く立ち遅れていますが、当院ではその部分は伝統的な東洋医学的なアプローチで進めていくことが、より良い結果に結びつくと確信しています。

鍼灸刺激により、子宮を初めとする骨盤内臓の血流量が増加するだけでなく、頸から上の顔面部や、大脳皮質血流量が増加することが確認されています。

また鍼刺激による麻酔効果では、脳内モルヒネが関与していることが明らかになっており、その反応は視床下部を介在させた、自律神経作用と共に、視床下部や下垂体が働き、様々なホルモン系に作用していることが推測されます。

鍼刺激により体性感覚神経を求心路として、脳に信号が届きます。

結果として、自律神経を遠心路として各器官に刺激が伝達され(大脳皮質血流、眼底血流、子宮血流、骨格筋血流)の血流量が増加することが分かっています。

手の平や足蹠への鍼刺激を行うと、脳血流と血圧が増加し、鍼刺激終了後に徐々に元に戻る反応を示します。

胸部への鍼刺激では殆ど変化を示しません。

脳血流の変化が血圧の上昇によるものなのかを調べるため、血圧が上昇しない措置を施した環境下で、同実験を施すと同じように脳血流が上昇します。

ですので脳血流は血圧変化と相関がないことが判ります。

体性感覚神経を切断した状態で、鍼刺激を行っても脳血流の上昇がおきないことも分かっています。

したがって、体性感覚神経が関与していると言うことで、単なる単シナプス反射ではないことが判ります。

鍼刺激量と脳血流の関係は、Ⅲ群とⅣ群繊維(侵害刺激:痛覚)関与が大きいことが、鍼通電刺激を用いて刺激強度を変えて調べた実験により明らかにされました。

手の平に鍼刺激を与えると、眼底血流が増加し、血圧も上昇します。

薬物により血圧変化が起こらない措置を施した状態で鍼刺激を与えると、眼底血流はほとんど変化しません。

神経と眼底血流の関係を明らかにするために、顔面神経を切断し交感神経は無傷な状態で実験を行うと、眼底血流の変化が現れます。

このことから、この反応には、副交感神経が関与していると予想されています。

鍼刺激(侵害刺激:痛覚)でおこるこの反応は、皮膚の非侵害性ブラシ刺激では起こりません。

したがってこの反応は、手の皮膚の鍼刺激(侵害刺激)を求心路とし脳を介して副交感神経を

遠心路とする血流増加反応と、さらに血圧上昇に依存した血流増加反応があるものと推測されます。

脳血流が増えたラットでは、大脳皮質から分泌される物質「アセチルコリン」が鍼や灸治療の刺激で約2倍に 増えていたとのことです。

鍼刺激によって子宮血流も増加します。

足蹠への鍼刺激で子宮血流が増加します。

鍼刺激(侵害刺激→痛覚刺激)では子宮血流が増加しますが、非侵害性のブラシ刺激では子宮血流は増加しません。

全身血圧の上昇が起こる手の平への鍼刺激では子宮血流に変化が見られません。

足先への刺激時に、神経を切断すると子宮血流の増加が消失することから、子宮血流は骨盤神経を介した鍼刺激(侵害刺激)により増加することが分かっています

1981年にYaoらが高血圧ラットに対して鍼刺激を行う実験を試みたところ、鍼刺激により血圧低下作用が見られることを報告しました。

ラットの足三里相当部位へ鍼刺激を行うと血圧低下が見られます。

筋肉への刺激量が大きいほど、血圧低下が大きくなることが判りました。

足や背中のように筋肉の多い体の部位では血圧が低下しやすいとのことです。

一方で手や足蹠のような末端の筋肉の少ない部位では血圧が上昇することが判明しています。

細い鍼より太い鍼の方が血圧の変動が大きく、電気刺激では通電強度が強いほど、血圧変化が大きくなると言う結果となっています。
鍼刺激は上位中枢では視床下部や大脳皮質、大脳辺縁系などを起点として、反射がおこります。

視床下部は脳下垂体ホルモンの調節中枢ですので、当然脳下垂体にも影響を及ぼします。

また、大脳皮質の血流量も増加させますので、自律神経系の調節機能や、様々な情動、感情、視覚、聴覚、味覚などにも影響を及ぼします。

ちなみに私は学生時代に網膜電図や脳電図を鍼刺激前と鍼刺激後に計測する実験を行っておりました。

結論としては鍼刺激後に計測した網膜電図、脳電図の振幅が早く、そして反応が大きくなることが分かりました。

さらに視力も計測しましたが、鍼刺激後の方が、視力が一時的に良くなると言う結果が出ました。